それは、屑であった。
先週の日曜日朝、私はシューイチを見ていた。
企画は『体格ブラザーズ』。名前を聞けば分かる人もいるだろう、ロバート秋山さんとアルピーの平子さんがリノベーションされた銭湯を回る企画である。なんとこれまでに4回放送され、Tシャツが出来、キャップも出来、ファンクラブもある(?)と言う超人気企画。
私も毎回楽しく拝見させていただいている。もちろんリアタイ+録画で。
しかしひとつ、そうたったひとつ。このコーナーを見ていた時に、頭をチリチリとよぎったものがあった。
それは、銭湯の中に樽があり、それが湯船として利用できると言うスポットを見ていた時のことだった。
「俺、好きなんだよね。この部分が」
平子さんは言った。
樽がまるで、カリブの海賊の一区画に似ていると。(って書きながらなんかイッツアスモールワールドだった気もしてきた)
海賊が樽に潜ったり出たり、その近くを別な海賊がぐるぐる回っているあの区画。
こうやって、とふたりで実演が始まる。楽しそうな笑顔と、上がる歓声。
そして平子さんは、樽の湯船から顔を出した。ばしゃりと、一定のスピードを保ち。
ひとくだりが終わって、秋山さんたちの方を見てけらけら笑いながら髪の毛をかき上げた。オールバックにも見えるその姿─────
瞬間、はっ、とする。
脳裏にチリリ、とソイツが浮かんだ。
反射にも近い。拒むことは出来なかった。
「ああ、そこにいたのか、吉原」
私は今までの爆笑も忘れ、ひとりで呆然と呟いていた。
いや誰やねん……と思ったそこのお前!是非聞いていってくれよな!
これから私は
『地元じゃ誰も観ていない映画』こと『僕は大声がいいです』こと『振り切ったホラーギャグ』こと『最大の見せ場は開始3分』こと『ミラー↑リング↓の発音は今でもまだ引っ掛かっている映画』こと
『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』に出てきた借金おうまクズa.k.a吉原宏樹の話をしとうございます。
この時代に吉原の話をしているのは私だけ。
大丈夫じゃない、問題だ。
以下ざっくりした解説と、ネタバレを含みます。
◯スマホを落としただけなのに、とは
『スマホを落としただけなのに』(スマホをおとしただけなのに)は、志駕晃による日本の推理小説シリーズ。既刊3巻。宝島社文庫「『このミステリーがすごい!』大賞シリーズ」よりシリーズ第1弾『スマホを落としただけなのに』が2017年4月20日に、第2弾『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』が2018年11月6日に、第3弾『スマホを落としただけなのに 戦慄するメガロポリス』が2020年1月9日に刊行された。
以上、Wikipediaより抜粋。
これがいわゆる『スマホ落とし』シリーズと呼ばれています。
映画版は小説版とは多少設定が異なるものの、(1作目に限っては)非常に面白いホラーに仕上がっています。
ちなみに、今回はこの2作目である『囚われの殺人鬼』の話をしつこくしていきます。
◯大体のあらすじ(1作目)
会社の会議に急いでいた富田(田中圭)は、タクシーにスマホを忘れてしまう。
そのスマホを親切に拾ってくれた「男」から連絡を受けた富田の恋人・稲葉麻美(北川景子)は、富田の代わりにスマホを受け取りにいくが、待ち合わせ場所のカフェに男は現れず。富田のスマホを持ち帰る麻美だったが、既に男のある計画はスタートしていた。
一方、神奈川県の山中で白骨死体が発見される。刑事の毒島(原田泰造)と新人刑事の加賀谷学(千葉雄大)は捜査を開始するが、次第に大きな事件へと発展し……。
まあ犯人は✕✕✕なんですけどね、初見さん。
◯大体のあらすじ(2作目)
なんやかんや最終的に勘で追い詰められ、逮捕された犯人。黒髪の女性ばかりを狙い殺人を犯す浦野(成田凌)は、自分に似た出自の加賀谷に興味を抱いていた。
加賀谷の恋人である美乃里(白石麻衣)は、ブラックハッカー『M』と名乗る人物が仮想通貨を盗んだ事件をきっかけに、Mを逮捕しようと動く加賀谷の恋人だからと言う理由でMに狙われ始める。
すぐにでもブラックハッカーの事件を解決したいが、何の情報もない神奈川県警は苦渋の決断を下す。それは『ハッカーである浦野にPC環境を与え、事件解決の協力をさせる』と言うことだった……。
まあ殺人鬼は逃げるんですけどね、初見さん。
◯基礎知識として
さて、これを踏まえた上でやっと本題に入れます。ここからは吉原の話です。
公式サイトになんて書いてあるか是非ご覧いただきたかったのでめっちゃ探したら、どうやら既にリンク切れになってるらしくて憤怒しているんだけどどうしたらいいかな、既にブチギレ。
一応Wikipediaには
吉原宏樹:平子祐希(アルコ&ピース)[注 2]
加賀谷の同僚の刑事。粗暴な性格で、浦野に暴力をふるうほか、彼にわざと虫が混入した食事を食べさせようとするなどの嫌がらせをしていた。ギャンブル好きで、闇金業者から借金をしている。
と書かれてました。
すごい!なにも間違っていない……!むしろ足りないくらいだ……!!
ちなみに後ろの[注2]には何が書かれてるんだろうと思って確認したら、
^ 相方の酒井健太が前作に出演。
って書かれてました。あの5分を『出演』に入れていいんだろうか。(※1作目の酒井さんは一瞬しか出ません)
◯劇中の吉原は
オールバック、鋭い目付きの男性。浦野を監視するため、地下の特殊な独房に配属された刑事。
上記の通り、吉原は非常に粗暴な性格であり、いわゆるオラオラ系です。フィジカルエリートで、ひょろい浦野を一瞬で組み敷くパワーがあります。実際、並び立つシーンやガラス越しに睨み合うシーンがありますが、厚みが全然違います。
他方、とんでもねえおうま借金王かつ警察官の風上にも置けない正真正銘のクズでもあり、本来一分の隙もなく継続していなければならない浦野の監視をサボっていたり、競馬をやっていたり、迂闊にも浦野の目の前で借金の取り立てに応じたりしてしまいます。
その癖愛嬌があり、それまで加賀谷との監視交代のシーンでは仏頂面をしていたにもかかわらず、ストーリー上とある事情から態度が豹変した吉原は、
笑顔で「いつも、お疲れさま♡」と加賀谷の肩を叩きます。
もちろんそれっぽい描写はあるものの、まだこの時点ではこうなる理由を説明されていないため、視聴者からは「ワケわからんキャラ変をした」人だと捉えられかねません。
さらにこのひとつ前の登場シーンは浦野に食事を持ってくる場面なのですが、なんともまぁ優しい呼び方で浦野を呼ぶのです。その後のフリだとしても恐ろしいくらい愛らしく優しい声色で。
(ちなみに私が一番好きなシーンは、この場面の終わり際、浦野に呼び止められた吉原が曲がり角から頭を出して「あ?」と笑顔で返事をするところです)
映画本編での登場は開始30分過ぎと言うそれなりの時間から、出てくるシーンは一度辺りの時間がかなり短く、さらに「加賀谷(主人公)もしくは浦野(ライバル)としか絡まない」という相当に限定的なキャラでもあります。
まあ死ぬんですけどね、初見さん。
◯吉原の最期
監督が語っている通り、とにかくヘイト集めをしてからスカッと殺されることになります。
そしてその姿があまりにも素晴らしすぎた結果、私は彼を忘れることが出来なくなったのでした。
というのも「飴玉で目玉を潰す」から始まる一連のシーンはとにかく壮絶で、成田凌と平子祐希の本気の取っ組み合いというだけで一見の価値があるほどです。
大詰めも大詰め、最期の瞬間に、吉原はほんの少しだけ抗います。瞬間の僅かな呻きと弱々しい抵抗、そしてそれも全く叶わぬまま、彼は『トイレの水で溺死』という悲惨なラストを迎えます。
直後に訪れる静寂も相まって、非常に緩急が付いています。ここが映画のピークと言って過言ではないでしょう。
そして吉原が死んだことによって、浦野は牢から抜け出し逃げてしまうのです。吉原は結果的に殺人鬼が都内に、そして国外に逃げるアシストをしたことになります。
しかし、何て言うか……ええと、これがないと致命的に映画が成り立たないくらいのレベルなので、結果的には吉原ありがとうと伝えたいです。私は。
◯原作では
いないんだよなぁ、それが。
というのも、吉原宏樹は原作には登場しません。吉原宏樹の影も形も、そこには存在しません。
概ねそれらしい設定は、小説版1作目で細かく描かれる富田の「ギャンブル癖」「競馬が好き」という辺りでしょうか。だとしてもそれはあくまでも富田に付与されていた設定なので、吉原とは分けられているべき属性です。ちなみにその原作富田の属性は映画富田には一切無いので、というか蛇足なので、たぶん削ったんでしょう。
しかしそうなると、とある理由から敢えて独立させたと考えるのがベターかもしれません。
(ていうか、なんなら前作の酒井さんの役柄である大野も登場しません。おりきゃら。映画オリジナルキャラ。あんなに面白いスキミング詐偽働くパンクチャンサカが……オリキャラ……?)
なんでかって
原作では、そもそも浦野を閉じ込めておく特別な独房などはなく、ただ会議室の椅子に縛ってるだけ
と言う致命的な欠点が存在し、それを補うために出てきたやつだと思われます。
そら逃げるやろ。
囚われ(笑)の殺人鬼(笑)
◯妄言
浦野は「黒い長髪の女性を殺す」という癖があります。
吉原もまあ黒い髪ですね。
………ふぅーん?
◯その後
浦野は吉原の殺害後、制服とスマホを盗んで逃走しています。
なるほど……そう来ましたか……。
加賀谷が牢の異変に気付くシーンでは、既に先に牢屋に来ていた上司・三宅(飯尾和樹)とともに、机に突っ伏すような体勢にさせられている吉原の亡骸と対面することになります。
この時三宅は「し、死体だよ…!死んでる…!」と本格的パニックに陥っていますが、
それはそれとして、若干塗れて髪の毛が下がった状態でぐったりする吉原の顔がめちゃくちゃ綺麗なので見て欲しいです。
蛙亭のイワクラちゃんなら一緒に「がっごいぃぃぃぃい!!!!」って言ってくれるって信じてる。
◯総括として
ヘイト係を勤め、自由に暴力をふるい、自分の一番搾り(直球)を振る舞い、最後には倍返しじゃすまないレベルで辱しめられてこれでもかというくらい苦しんで死ぬ悪役。
最高じゃあないっすか……。
ちなみに私は例の乱闘シーンが好きすぎて、そこのためだけに映画館で2回観ました。パーフェクトでした。
本当の本当に余談ですが、公表されているプロフィールによれば、浦野(成田さん)と吉原(平子さん)は身長が一緒です。体重は浦野が非公表なんで分かりませんが、恐らくワルイージとクッパくらいの差はあるんじゃないかと思います。
◯最後にここすきをまとめておきます
スローでゆっくり歩いてくる吉原の足元
牢屋を開けてる時の真顔
ちっ、と舌打ちしたあとにパワーに物言わせて浦野を押さえつける悪逆姿
ミラーリングしてる間の「?」が明らかに頭上に浮かんでいるぼんやり顔
競馬新聞に向き合ってるとこ
にやにやからの憤怒
曲がり角からの笑顔
「なぁ、なぁ、浦野さんよぅ」の言い方と、これ言いながら上目使い気味に浦野に向けてる視線
スロー右目突かれ原
そしてめっちゃ気持ち良く死んでくれるところ
そのどれもが素晴らしい
まあ……、あれです。最低から最高が生まれる的なさ。それでいいんじゃないかな。
これで少しでも私の愛……愛?が伝われば幸いです。
………いや、こんな愛なら伝わんなくてもいいかもな……。